第6回定例講演(2017/10/21)

河川とダム

本記事は、第6回定例講演会における(岐阜県地名文化研究会副会長)三澤 博敬氏の講演 『やさしい河川工学』より当編集部で独自に作成したものです。

1. 河川に関する用語

1)流域面積(集水面積)

 河川がその河川に流入する全地域の面積のこと。日本最大の流域面積は利根川の16,840km2
木曽川は5番目で9,100km2で、揖斐川及び長良川は、河川法上では木曽川水系に包括されている。 因みに世界最大はアマゾン川の700万km2

2)一級水系と一級河川

 水系とは、同じ流域内にある河川、湖沼、水路の総称のこと。
 洪水被害や水利用などの観点から特に重要性の高い水系として、国が政令で指定したものが一級水系で、 現在全国で109水系が指定されている。 この水系にある河川が一級河川で、特に重要な区間は国土交通大臣が管理し、その他の区間は都道府県知事が管理している。 同様に、都道府県知事が管理している二級河川のある水系を二級水系という。 ただし、一級水系に二級河川が、二級水系に一級河川が混在することはない。

3)本川(ほんせん)(本流)と支川(しせん)(支流)と派川(はせん)

本川・支川・派川

 本川は、その水系を代表する河川で、(一般的には水量・長さが最も大きい場合が多い) その本川に合流するのが支川で、本川から分かれるのが派川。
 木曽川の川島地区の分流の総称を「三派川(さんぱせん)」 と呼び、本流の北側を北派川(ほっぱがわ)、 南を南派川(なんぱがわ)が流れる。 この北派川は新境川に合流しているが、大正時代まで本流であった。

木曽川三派川(原画像はGoogle3Dマップより)

4)放水路と捷水路(しょうすいろ)

 河川が弓のように曲がっている部分をまっすぐに直して、洪水を安全に速く流下させるために人工的に水路を削り開く。 その内、海や湖や他の河川と繋ぐ水路を放水路、同じ河川に短絡させる水路を捷水路という。

5)洪水と氾濫

 大雨や融雪などが原因で河川が増水することを洪水という。 これによって河川が氾濫することも洪水と呼ぶが、氾濫のような水災害を引き起こす場合のみを洪水という訳ではない。
 氾濫には「外水氾濫」と「内水氾濫」がある。 増水によって河川の堤防から水が溢れ出たり、堤防が崩れて家屋や田畑が浸水した場合を外水氾濫という。 一方、堤防を超える水位に達していなくても、河川へ流れ込んでいる水路や下水路の排水能力の不足などによって、 雨水が処理しきれずに引き起こされる氾濫を内水氾濫という。

都市部の内水氾濫/気象庁「防災気象情報についてF 」より

6)堤防周りにおける内外、表裏、左右

 堤防によって洪水氾濫から守られている農地や住宅地側を「堤内地」, 堤防に挟まれて水が流れている側を「堤外地」と呼ぶ。 かつて、輪中堤によって洪水から守られているというところから、 自分の住んでいるところを堤防の内側と考えたのだといわれる。

河川と堤防内外の呼称

 一方、「川表」と「川裏」は、堤防内を流れる川を主体に川側が川表で、川裏はその外の住宅地側をいう。 また、堤防の斜面を「のり面」というが、これも川側を表のり面という。 「右岸」と「左岸」については、川上から川下に向いて見た時の右左をいう。

7)高水敷と低水路

 高水敷は、常に水が流れる低水路より一段高い部分の敷地をいう。 大きな洪水が起きれば水に浸かってしまうが、平時は河川敷として、グランドや公園など様々な形で利用されている。 このような堤防の断面を複断面といい、高水敷のない場合を単断面という。
 また、堤防が高くなると、のり面の安定性を保つために、その斜面の途中に平坦部を設ける。 これを「小段」というが、補修工事や水防活動といった作業を容易にする役割もある。

2.ダム

1)アースダム

 本体が粘土、土砂などを主材とするダムで、台形状に形成して建設される。
 最も古典的な型式で、全国各地に散らばる「ため池」もこの形式で建設されている。 堤高 15 m 以下のものを含めると、正確な基数は分からないほどに多い形式のダムである。
 日本最古のダムは、7世紀前半に築造されたと「記紀」にも伝えられる狭山池ダムといわれている。

狭山池ダム/大阪狭山市岩室(画像:© 2018 Google)

 比較的に規模が大きいアースダムとしては、福島県の羽鳥ダムが知られる。 阿武隈川流域の白河地域における灌漑を目的としたダムで、堤高は37.1m、戦後間もない昭和31年(1956)に完成している。

羽鳥ダム/福島県岩瀬郡天栄村羽鳥字唐沢

 アースダムとして日本一堤高が高いのは、熊本県の清願寺ダムで、60.5mある。 球磨盆地の灌漑と洪水調節目的で、免田川上流(球磨川水系)に建設され、昭和53年(1978)に完成して熊本県が管理している。

清願寺ダム/熊本県球磨郡あさぎり町皆越(画像:© 2018 Google)

2)ロックフィルダム

 堤体材料として岩石や、砂利、砂、土質材料を使用したダム。 ただ、材料の混成に対する基準が明確でないことから、世界的にはアースダムと厳密な区分はされていない。
 断層のある地域や軟弱地盤のようなところでは、コンクリートダムの建設が困難であるため、 ロックフィルダムが採用されることが多く、また、ダム自体の体積も大きいために安定性があり、 アースダムよりは丈夫である。

阿木川ダム/恵那市東野地先

 ダムには、洪水の流入に対しダムと貯水池の安全を確保するために「洪水吐」という放流設備が設けられる (発電用ダムなどでは余水吐と呼ぶ/「ダムの設備」参照)。 コンクリートダムなどは、堤体中央部にこの洪水吐を設けることができるが、 ロックフィルダムでは、それができない。このため、左岸・右岸の何れかの山を掘削して洪水吐を設けることになる。
 高瀬ダムは、日本第二位の高さ・176mを誇る巨大なロックフィルダムで、東京電力が管理する発電用ダム。

高瀬ダム/長野県大町市平高瀬入(画像:© 2016 Google Earth)

 一方、電源開発(J-POWER)が管理する御母衣ダムは、只見川の奥只見ダム、田子倉ダムと共に「OTM」の頭文字で呼ばれ、同社を代表する水力発電所の一つである御母衣ダムは、日本屈指の規模のロックフィルダムである。 巨大な洪水吐は、シュートと呼ばれる長い水路を経て、スキージャンプのように川の中央に放出される。 そして、このダムには、もう一つトンネルを経由して水路下から放出される洪水吐がある。 当初は重力式として計画されていたが、断層が多く地質が弱かったことからロックフィルダムを採用することになった。 当時としては、100mを超えるロックフィルダムの建設実績はなかったので日本初として注目された。

御母衣ダム/岐阜県大野郡白川村平瀬(画像:© 2018 Google)

3)重力式(コンクリート)ダム

 主にコンクリートを主要材料として使用し、堤自身の重力により、水圧等の外力に抵抗する形式のダム。 構造は、一般的には直線型で、横断面は三角形で構成されている。
 ダムとしては最も頑丈な型式であり地震・洪水に強いことが利点であることから、 明治以降、最も多く建設されてきた型式である。 しかし、膨大なコンクリート量が必要であることや、前述のように、 断層のない堅固な基礎岩盤という条件を満たす地点の減少などに伴い、近年、その建設実績は減少傾向にある。

小里川ダム/岐阜県恵那市山岡町田代

【ダムの設備】

小里川ダムのパンフレットより
1)洪水時の放流設備

洪水吐設備

低水放流設備

選択取水

2)ダム湖の水質対策
 ダム湖には、陶土が混ざった水や生活排水などが流れ込みます。 そのままにしておくと、ダム湖の水が濁ったりアオコや淡水赤潮が発生しやすくなり、その水が下流に流れます。 そこで、上流の水をダム湖に貯めずに、下流に放水する「バイパス管」やダムの表層の水をかきまわして アオコの発生を防ぐ「表層循環設備」を設置し、小里川ダムの水質対策を行っています。

ダム湖の水質対策(縮小のため改変、拡大版は無修正)

 小里川ダムの両岸には、四神相応から玄武(北)・青龍(東)・朱雀(南)・白虎(西)の石碑が置かれている。 この石は、縄文時代の巨石群遺跡で知られる「磐座いわくらの森」 の同町田沢にあるから採取された石が使われている。

小里川ダム/四神相応(背景はGoogle3Dマップより)

 重力式コンクリートダムの中では日本一の高さを誇るのは、阿賀野川水系の只見川最上流の奥只見ダムで堤高157mある。 映画「ホワイトアウト」の舞台となったモデルのダムとしても知られている(実際のロケ地は黒部ダム)。

奥只見ダム/福島県南会津郡檜枝岐村見通(右岸)、新潟県魚沼市湯之谷芋川


4)アーチ式(コンクリート)ダム

 ダム本体がアーチ式の形をした、コンクリートを主要材料としたダム。 アーチ式は、重力式に比べてコンクリートの使用量が少なく済み、工費圧縮が可能で経済性に優れている。 その反面、アーチ状の止水壁がダムに掛かる莫大な水圧に耐えるには、両側山腹の強固な基礎岩盤の存在が絶対条件となる。 そのため、重力式以上に建設可能な地点は限定されることになる。

黒部ダム/富山県中新川郡立山町芦峅寺(photo:Ippukucho)

 7年の歳月をかけて、昭和38年(1963)に完成した黒部ダムは、堤高が日本最大で、その高さは186mある。 アーチ式コンクリートダムではあるが、計画段階で発生したフランスのダム決壊事故を受けて、 アーチ両端の強度が見直され、結果、両端はウイング状の重力式の構造になっている。


本ページの背景:「板取川」SourcePhoto:K.Nishimura
https://canon-new-fd-lens.jimdo.com/nfd-35mm-f2/


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2017年度第6回講演より

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