第5回定例講演 (平成28年12月17日) |
地盤力学から見た濃尾平野
(名古屋大学院教授/地盤工学)中野 正樹
中野先生には、普段から「地盤工学」に馴染みのない超初心者向けの講義にチャレンジしていただきました。
「土は、一定の力を与え続けると時間と共に変位する、力学的には珍しい物質なのです」というアプローチから講義が始まりました。、
しかし、土はそんなものなのだと疑問にも思っていなかったので、正に、木からリンゴが落ちるが如しでした。
本稿は、そうした講演を元に当編集部にて作成した、初歩中の最初の1ページとなります。
本稿は、そうした講演を元に当編集部にて作成した、初歩中の最初の1ページとなります。
(編集部)
T.土・地盤とは?
1.土・地盤への働きかけ
(1)「きる」
切土◎写真は拡大表示できます
(2)「もる」
宅地、道路盛土、鉄道盛土、アースダム
(3)「ほる」
トンネル、地下LNGタンク、地下空間利用(生活空間,放射性廃棄物処理など)
(4)「ささえる」
土木構造物の支持(以上は「NEXCO中日本」資料より)
(5)「うめる」
埋立、海上人工島(6)「うまくつかう」
発生土の有効利活用焼き物
(7)「ながす」
地中の水の流れ(8)「まもる」
埋蔵文化財の保全技術2.地盤災害
映像-1 山崩れ
映像-2 地すべり
(1) 土砂災害
@斜面崩壊(土砂崩れ)
土砂崩れによる裾野の広がりは、崩れ落ちた斜面の高さの2〜3倍にもなり、水分が多い場合などは5倍程度まで広がります。
◆山崩れ
A地すべり
◆山崩れ
山地や丘陵などでの斜面上部が崩れ落ちる現象
◆がけ崩れ
都市周辺の台地の急斜面や切り土斜面から土砂が崩れ落ちる現象
緩い斜面において、比較的ゆっくりと長時間にわたり土砂が移動する現象
B土石流
土砂・岩石が多量の水とともに粥状になって谷や渓流を流れ落ちる現象
(2) 液状化現象や地盤沈下
液状化は、砂状の地盤が適度に水を含んでいるところに振動が加わったとき、地盤が急に液体のように流動性を持ってしまう現象であるのに対して、
地盤沈下は、地下に密度の低い部分や空洞ができ、その上にある土壌や建物の重さに耐え切れず地面が沈下する現象です。
3.土・地盤材料の特徴
- 水を含む材料
- 圧縮性材料
- 大きい変形・小さい変形
- 変形はゆっくり,ジワリジワリと進行する・早く進行する.遅れて進行する。
地盤の沈下などは10m近くも,100年かけて沈下する。 - 全ての構造物は地盤の上に立っている。
- 自然材料:不均質に分布する.地域性もある。
- 地球物理学,地学,地質学,地震学とのコラボ
U.土の振る舞いの表現
1.土・地盤材料の構成とそのモデル化
(1)土質材料
図-1 土の構成とそのモデル化
図-2 粒径加積曲線
土は、土粒子(固相)、水(液相)、空気(気相)の3つの相からなりますが、
その内の土粒子は、その大きさ(粒径)から、粘土、シルト、砂、礫などに区分されます*1)。
そして、種々の粒径の土粒子がどのような割合で混ざり合っているかを粒度と呼んでいます。
その粒度分布を表す方法として、粒径の小さい順に、その質量百分率を累積して表した粒径加積曲線(図-2)が用いられます。 砂などの比較的粒径の大きい粗粒分は、「ふるい」で選別できますが、粘土のような細粒分は 水に入れて調べる沈殿分析法という手法が用いられています。
そして、種々の粒径の土粒子がどのような割合で混ざり合っているかを粒度と呼んでいます。
その粒度分布を表す方法として、粒径の小さい順に、その質量百分率を累積して表した粒径加積曲線(図-2)が用いられます。 砂などの比較的粒径の大きい粗粒分は、「ふるい」で選別できますが、粘土のような細粒分は 水に入れて調べる沈殿分析法という手法が用いられています。
(2)土の圧縮と膨張
図-3 圧縮性材料としての土
本稿では、土を土粒子とその隙間にある水とからできている(飽和土)2相複合体として理想化したモデルで考えていきます。
土・地盤材料に力を与えても、土粒子だけでは縮まないし(非圧縮性)、水だけでも縮まない(非圧縮性)。 では、どうやって土は体積変化を起こすのでしょうか?
それは、子供の頃の砂遊びなどで経験していることなのです。 土が圧縮する(縮む)には、水が外へ出なければなりませんし(図-4)、 逆に、土が膨張する(ふくらむ)ためには、周りから間隙に水を送り込む(図-5)必要があるです。 このように、土の体積変化は間隙への水の出入りで決まるといえます。
土・地盤材料に力を与えても、土粒子だけでは縮まないし(非圧縮性)、水だけでも縮まない(非圧縮性)。 では、どうやって土は体積変化を起こすのでしょうか?
それは、子供の頃の砂遊びなどで経験していることなのです。 土が圧縮する(縮む)には、水が外へ出なければなりませんし(図-4)、 逆に、土が膨張する(ふくらむ)ためには、周りから間隙に水を送り込む(図-5)必要があるです。 このように、土の体積変化は間隙への水の出入りで決まるといえます。
図-4 土の圧縮 |
図-5 土の膨張・膨潤 |
*1) 粒径区分
規格 | 石 | 礫 | 砂 | シルト | 粘土 | コロイド | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
国際土壌学会法 | - | 〜2 | 粗 | 細 | 0.02〜0.002 | 0.002〜 | - | |||||
2〜0.2 | 0.2〜0.02 | |||||||||||
JIS | 〜75 | 粗 | 中 | 細 | 粗 | 中 | 細 | 0.075〜0.005 | 0.005〜0.001 | 0.001〜 | ||
75〜19 | 19〜4.75 | 4.75〜2 | 2〜0.85 | 0.85〜0.25 | 0.25〜0.075 | |||||||
日本農学会法 | - | 〜2 | 粗 | 細 | 微 | - | 0.01〜 | - | ||||
2〜0.25 | 0.25〜0.05 | 0.05〜0.01 | ||||||||||
USDA | - | 〜2 | 極粗 | 粗 | 中 | 細 | 極細 | 0.05〜0.002 | 0.002〜 | - | ||
2〜1 | 1〜0.5 | 0.5〜0.25 | 0.25〜0.1 | 0.1〜0.05 | ||||||||
ASTM | - | 〜4.76 | 粗 | 中 | 細 | 0.075〜0.005 | 0.005〜0.001 | 0.001〜 | ||||
4.76〜2 | 2〜0.42 | 0.42〜0.075 |
JIS:日本統一分類法、USDA:米国農務省法、ASTM:米国試験材料協会
表-1 様々な粒径区分法(粒径の数値は mm )
2.典型的な2つの挙動−圧密とせん断
(1)土の圧密
図-6 土の圧密
図-7 有効応力と沈下
シリンダーの中に土を入れ,上から一定荷重で載荷します(図-6)。すると、時間とともに,水が徐々にしみ出て土が圧縮されていきます。
このように、粘土地盤が時間とともに土が圧縮する現象を圧密と呼びます。
この過程において、「一定荷重を、土粒子の骨格構造と水圧とで受け持つ」と考えることができます。
一定荷重を支える全応力をσ
土粒子の骨格構造による有効応力をσ’
過剰間隙の水圧をueとすると
土粒子の骨格構造による有効応力をσ’
過剰間隙の水圧をueとすると
σ=σ’+ ue
これを「有効原理の法則」といいます。
【圧密試験】
荷重をかけ1日放置し,最終沈下量を間隙比
この圧縮線を(何故か直線ですが)
と呼ばれ、土の圧縮試験結果を整理する一つの方法として用いられています。
e
になおしてプロット、さらに倍の荷重を与え1日放置、これを繰り返します(図-8)。 こうして得られた点を結んだ圧縮線は、横軸に与えた荷重p
、 縦軸に間隙比e
において下に凸の曲線となります(図-9)。 この横軸を荷重p
の対数にすると、圧縮線は直線となります(図-10)。この圧縮線を(何故か直線ですが)
e-log p
(イー・ログ・ピー)曲線と呼ばれ、土の圧縮試験結果を整理する一つの方法として用いられています。
図-8 土の圧密試験 |
図-9 圧密試験の圧縮線図-10 e 〜 log p曲線 |
このように、同じ土でも、
水が搾り出されると、材料は強くなり
周りから水をもらと、ほぐされ、材料は弱くなる
のです。だからこそ周りから水をもらと、ほぐされ、材料は弱くなる
地盤は,地盤の上に構造物を作ったときが一番危険といえるのです。
そして、それを作ることができれば、時間とともに強くなります。
(2)土のせん断
図-11 一面せん断概念図
図-12 安息角
砂遊びなどで砂山を作ろうとして、高く積み上げ過ぎると崩れてしまいます。
こうして土が滑ったり、潰れたりする挙動を「土のせん断」といいます。
固体同士を合せて両側から押し付けている状態で、その二つを滑らそうとした時、 滑り出す時の力は押し付ける力に比例します。 同じように、容器に詰めた砂で実験しても、滑り出す時の力(せん断強さ)は押し付ける力(拘束圧)に比例します。 この時の比例定数を
また、粘土地盤のように粒子が細かく粘着力がある場合は、拘束力がなくてもせん断力がゼロにならないために、 定数として、その粘着力(
固体同士を合せて両側から押し付けている状態で、その二つを滑らそうとした時、 滑り出す時の力は押し付ける力に比例します。 同じように、容器に詰めた砂で実験しても、滑り出す時の力(せん断強さ)は押し付ける力(拘束圧)に比例します。 この時の比例定数を
tanφ
としたときの 角度φ
をせん断抵抗角または内部摩擦角と呼びます。 これは、凡そ、砂山が崩れ始める時の勾配(安息角)に相当するとされます。また、粘土地盤のように粒子が細かく粘着力がある場合は、拘束力がなくてもせん断力がゼロにならないために、 定数として、その粘着力(
c
)がせん断強さに加わります*2)。 ただし、”ぬるっ”とした粘土は内部抵抗摩擦が小さく、せん断抵抗角は非常に低いといえます。
*2) 土がもつ最大せん断抵抗力(せん断強さ)
この
F
:滑り出す時の力(せん断強さ)N
:滑り面に垂直に働く拘束圧φ
:せん断抵抗角c
:土粒子の粘着力この
c
とφ
をせん断定数と呼んでいます。V.濃尾平野の砂と粘土の挙動
1. 土の構造と過圧密
図-13 土の構造
(図は『土質工学ハンドブック』地盤工学会)
(1)砂と粘土の違い
土の粒子が小さくなるほど、(粒子の質量に対する)表面積が大きく、粒子同士の結合が強くなります。
しかも、間隙を内包するような骨格であるため、圧密させるには長い時間と大きな荷重が必要です。
一方、比較的大きな粒子である砂などでは、重力で積み重なった構造で、振動や衝撃などで容易に密になります。
図-14 砂と粘土の構造の劣化
(2)自然堆積粘土のかさばり
自然堆積粘土は,基準となるよく練返した粘土に比べて、同じ荷重に対して、間隙比
eが大きくとれます(かさばっている)。 そのかさばりの程度を構造の程度と定義し、大きくかさばっていることを高位な構造ともいいます。図-16 トランプに例えた土の構造の喪失 | 図-15 土の構造のかさばり |
(3)正規圧密と過圧密
図-17 鋼材の降伏点
図-18 土の圧密降伏点
図-17 は、鋼材を両端から引っ張る実験で、引張力に対する歪み(伸びしろ)を表したものです。
降伏点(
同じように一度圧密された土地盤は、そのとき受けた応力を記憶するのです。
土地盤に一定の荷重
A
)を過ぎると、歪みがひどくなり、弾性は失われて元の長さには戻らなくなります。 仮に、点B
で引張を中止すると、元の点O
に戻らず、歪みが残る点P
になります。 そして、再度引張を開始すると、この鋼材は降伏点をB
として変位し、点B
が記憶されるのです。 更に引張を続けて点C
で止めると点Q
に戻り、降伏点C
が記憶されるのです。同じように一度圧密された土地盤は、そのとき受けた応力を記憶するのです。
土地盤に一定の荷重
P1
をかけて、時間と共に土が圧縮される現象が圧密でした。そして、やがて圧縮も収まり安定するのでした。 この状態を正規圧密状態と呼びます。 この荷重P1
で圧密された土地盤に、それより小さい荷重P2
(>P1>P2)をかけたとします。 一度P1
で圧密された土は荷重P1
では圧縮されません。これが過圧密状態なのです。
図-18 は、自然堆積粘土の各荷重における正規圧密状態での変位をプロットして得られた圧縮曲線です。
横軸を時間軸とした、各荷重ごとの変位曲線ではありません。
(3)ボーリングとN値
通常、ボーリング調査といえば、ボーリングによって掘削した孔を利用して、1mごとに地盤の硬さを測定する調査(標準貫入試験)を指します。
そして、土のサンプリングも同時に行なわれます。
この標準貫入試験によって得られたデータがN値で、地盤の安定性を推定する目安とされます。 具体的には、63.5kgの重りを75cmの高さから自由落下させて、サンプラーが土中に30cm貫入させるのに要する回数がN値です。 |
表-2 N値の感覚的な目安 |
2.濃尾平野
(1)東海湖と濃尾傾動運動
図-19 濃尾平野の大まかな地形概念図
(原図は国土地理院標高図+土地条件図)
今から凡そ400〜500万年前頃、現在の濃尾平野を中心とした一帯が沈降盆地化し、巨大な淡水湖ができました。
これが東海湖で、ここに堆積した地層を東海層群と呼びます。
凡そ100万年前、この東海湖の西に連なる鈴鹿山脈、養老山地、東に連なる三河山地の隆起と共に、湖は消滅しました。
この養老断層西域で沈降活動は、西に沈み込むように沈降し、東方では隆起して丘陵地を形成してきました。 これを濃尾傾動運動といいます。そして、この活動は今も続いているのです。
一方、地球は氷河期と間氷期を繰り返してきました。そのため海面の水位が下がったり (海退)、上昇してきたり(海進)してきました。 海から遠ざかるほど、川からの礫や砂が堆積し、海底になるほど泥が堆積していきます。 そのため、東海層群の上層の地層では砂層と粘土層が互い違いに幾重にも形成されているのです。
この養老断層西域で沈降活動は、西に沈み込むように沈降し、東方では隆起して丘陵地を形成してきました。 これを濃尾傾動運動といいます。そして、この活動は今も続いているのです。
一方、地球は氷河期と間氷期を繰り返してきました。そのため海面の水位が下がったり (海退)、上昇してきたり(海進)してきました。 海から遠ざかるほど、川からの礫や砂が堆積し、海底になるほど泥が堆積していきます。 そのため、東海層群の上層の地層では砂層と粘土層が互い違いに幾重にも形成されているのです。
図-20 濃尾平野東西地質断面図(「桑原1968を足立が修正加筆」を一部改変)
(2)防災と地質調査
濃尾平野では、基盤までの堆積層が、深いところでは2000メートル以上にもなります。
こうした堆積層では地震波は増幅され、強い横揺れを想定しておく必要があります。
愛知県では、平成11年〜13年にかけて、微動アレイ探査、反射法及び屈折法、大深度ボーリング等の調査*3)を行い、 その調査結果が公開されていて、地下構造の3Dマップや、そのモデルによる地震のシミュレーションを見ることができます。
愛知県では、平成11年〜13年にかけて、微動アレイ探査、反射法及び屈折法、大深度ボーリング等の調査*3)を行い、 その調査結果が公開されていて、地下構造の3Dマップや、そのモデルによる地震のシミュレーションを見ることができます。
*3) 地質調査の手法
ボーリング調査以外にも様々な探査手法があります。
ボーリング調査以外にも様々な探査手法があります。
- ・弾性波(実体波)、表面波探査
- 小さな地震を発生させて、その伝播速度によって地質を推定します。反射法と屈折法があります。
- ・速度検層
- 発生させた地震波をボーリング孔で受けて地質を推定します。
- ・電気探査
- 直流電流を流して、その2次元抵抗分布から地質を推定します。
- ・磁気探査
- 地球磁場を測定し、求めた地下の磁性体分布から岩石等の種類を特定します。
- ・重力探査
- 非常に精度の高い重力測定を行って、その違いによって推定します。枇杷嶋ー熱田断層なども、この調査で発見されています。
- ・常時微動測定(微動アレイ探査)
- 複数の地震計で、微細な地震波を測定し、そのデータを分析することで、かなりの深部まで分析が可能で、近年注目されている手法です。
1300年前、小規模の海進でも、濃尾平野一帯は海になっていたと思われています。
当時の古地図には「津島」や「枇杷島」が島として描かれています。
図-21 は色別の標高地形図ですが、津島が島であったことが想像できます。
◎下図をクリックすれば、別ウインドで拡大(実寸大)図が開きます
◎下図をクリックすれば、別ウインドで拡大(実寸大)図が開きます
ただし、画像容量が大きい(5Mb)ので、PCのメモリに余裕がない場合は、ご注意ください。
【参考文献】
- 足立 守:『石は語るE 名古屋の地質と地形から見た濃尾平野の生い立ち』/TARCHITECT(2002)日本建築家協会東海支部