Lecture

UpDate/2017/2/15





第3回定例講演
(平成28年8月20日)


地名に見る各務原台地の開拓史
(教育委員会事務局文化財課課長)西村 勝広

*一部、図、写真等は、当編集部にて加筆


1.各務原市の地名(構造)

各務原市内の小字名 1,149件 を分析(旧川島町を除く)

(1)主な地名のルール(形容+指標容)

ここでの指標とは
  1. 住居
    村、郷、屋敷、軒
  2. 宗教
    社寺、堂、祠
  3. 施設
    街道、海道、戸、堤、井、門、塚、橋、溝、倉、市場
  4. 環境
    田、畑、野、原、場、岩、山、林、樹木、藪、林
    ※ 田=99件 畑=24件 野=95件 原=26件
  5. 地形
    野、洞、巾、欠、平、斜面、島、掘、沖、浦、川、池
    ※ 洞=28件 島=34件
  6. 生物
    馬・蝙蝠・羽根
北(裏・後・陰)

西 ← <指標>中 → 東

南(表・前・陽・向)

指標の位置/東西南北

上)

<指標>

指標の位置/上下

外 ← <指標> → 内
口 ←      → 先
鼻 ←      → 越
花 ←      → 出
藤(淵)←    → 脇
崎(先)←    → 角

指標の位置/右左

丸・長・尾・竪・棚・平 + <指標>

指標の形


新・古・元・本 + <指標> <指標>

指標の新旧


大・小・高・長・広・数値 + <指標>

指標の規模


葭・芦・粟・桐・栗・菖蒲・桑・茅・桜 + <指標>

指標の樹勢


図-1 各務原市小字図(旧川島町を除く)


(2)特定の意味のある地名

覚え(水害危険)
流レ、轟、北荒田、築田、大寄、川原ケ、梅ノ木、花の木、藤池
覚え(安全な土地)
島地名、堤地名、松地名
覚え(耕地の評価)
宝禄田、金付、早上がり、水腐、宝田、栗林、東焼野、飯山
人名を付す
安積野、吉兵衛新田、孫治郎野、甚佐裏、弥平島、惣助分

(3)地名の実例

内、
中、
北、
西、
前、
東、
南、
前、
屋敷
、北
屋敷
、東
屋敷
、山
屋敷
、本
西、大
先、
一番
屋敷
、二番
屋敷
、三番
屋敷
、四番
屋敷
、五番
屋敷

前、
口西、
口東、東
薬師
薬師
北、
薬師
西、
薬師
東、
薬師
南、南

、若
西、
東、
裏、
天王
前、
、仲
、脇
、南
、二
反田
、五
反田
、八
反田

、西
、高
、長
、大
、柳
、中
、仲
、餅
、長之

、前
、向
、北
、南
、東
、西
、舟

鼻、
浦、
崎、
下、
西、
後、大
、天狗

、東
、車
、中口
、稲
、地獄
、半ノ木
、大安寺

西
下、東
下、西
、西
上、東
上、北
下、
、北
、大
、中
、桐
、中上
、東上

浜井
、駒
、茅
、目洗
、粟
、芦
、蛇

、中
、西
、寺
、大
、影
、扇

、西
、東
、南
、前
中、

、西
、東
、中屋
、清水
、西大野
、島

前、小
、栗
越、高
下、
上、
下、
東、
ノ上、大
、堅

下、大
越、小
海道
、大
海道
、西
海道
、南
海道

尾下、矢
ヶ橋、
出、
塚、
蝙蝠
東、尾


2.各務原市の地名(特徴)

写真-1 各務山採掘場
(国土地理院、航空写真より)

◆洞地名が多い

山地部の特徴(美濃堆積岩類)
『洞』=
谷間の行き詰まりになるような地形
河川の浸食作用
掘+ラ(接尾語)
山間の小平地に耕地を開墾する懇(ハル)が語源か

◆台地地形に由来する地名

(各務原台地)
崖・崩壊地
欠(カケ)、欠上、欠下
崖・傾斜地・土手
巾(ハバ)、巾上、巾下、羽場

3.各務原市の開拓(地名より)

(1)各務原台地の開拓

  1. 古代・中世のほか、江戸時代中期以降に命名された地名が多い(開拓の本格化)
  2. 台地上の小字は概して面積が広く、数は少ない
  3. 台地の開拓による新田、新田村には開発者の名前(三滝新田・吉兵衛新田・孫治郎野)
  4. 入植した戸数(六軒・二十軒)
  5. 内野新田、三ツ池新田、柿沢、三滝新田(屯倉佐兵衛と滝屋孫作)=六軒
  6. 吉兵衛新田(佐々木吉兵衛)、影野新田
  7. (吉兵衛新田は昭和38年の町名変更で「蘇原吉新町」となり、新田の名は消えている)

図-2 各務原台地3D図(国土地理院、色別標高図3Dより)

(2)扇状地の開拓

  1. 南西部扇状地(稲羽地区)旧河道+氾濫平野+扇状地(微高地)
  2. 面積の狭い小字が多く分布している。台地の中央と対称的
    自然条件が厳しくとも人間が住み、盛んに活動を行った証左
  3. 「井」の付く地名が多い
    旧河道上に地下水脈を利用した井戸の掘削

(3)境川流域の開拓

写真-2 蘇原地区/新境川周辺
(国土地理院、航空写真より)

古代条里制地割の発達か
~坪、~反田、~道、道~
109m四方(1町四方)=坪・坊
条里プラン
班田収授ではなく、墾田永年私財法による。
五反田など、田の面積を重視した時代は後世にもある。
必ずしも条里地名とは限らない
「~島」地名が多い。
低湿地に囲まれた微高地や水路に囲まれた耕作地などを「島」と見立てた。
(洪水の時に浸水しない安全な微高地を象徴)

4.まとめ

  1. 地名とは、人が人の価値観で付けた地域の呼び名で最も狭い範囲で見出されたシンボルである。
  2. 地名には、人の感覚・覚え書き・営みの努力が秘められている。
  3. 地名付与そのものが、開拓の歴史といえる。
地名の音や漢字から、とてつもなく深い意味を見出そうと研究される方がおられる。 本来、地名とは庶民レベルで付されたシンプルなものである。


web拍手 by FC2 よろしければ、この拍手ボタンを押して下さい(書込みもできます)

▲ページ先頭へ
TopPage
inserted by FC2 system