「がんどばぼち」と木遣音頭
〜今に伝える伝統文化
(中山道鵜沼宿まちづくりの会会長) 安田 新作
このページは、本講演から、当編集部が独自に作成したものです。
◆がんどばぼち
がんどばぼちとは、小麦粉を練った生地で餡を包み、ほんのり甘い香りのする「サルトリイバラ」の葉を巻いて蒸した和菓子。
「がんどば」は、サルトリイバラの葉の俗称で、「ぼち」は、餅ではなく小麦粉で練ったもの云います。
かつては田植えの時期によく作られ、農作業の合間のおやつに食べられていましたが、
今では、ほとんど家庭では作られなくなってしまいました。
数年前の中山道鵜沼宿まちづくりの会の発足と共に、婦人部の皆さんがこの昔懐かしい味を再現し、
祭りやウォーキングなどのイベント限定で売られるようになりました。
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【サルトリイバラの葉】
【サルトリイバラの花】
【サルトリイバラの実】
上の3点の写真提供/「樹げむ舎」
「がんどば」ことサルトリイバラは、多くは赤松の山に生育します。春に地下茎から地面を這うように茎が伸びていきます。
その茎に猿が躓いて捕らえられるから「猿捕茨」と名付けられたかどうかは分かりませんが、茎には棘もあります。
生育する場所によっては樹木に寄りかかりながら茎を
伸ばしたり、時には3メートル程、そのまま上に伸びて低木のようになったりすることから「半低木」に分類されているようです。
5月頃に淡黄緑色の目立たない小さな花を多数つけ、やがて果実となり、秋から冬にかけて赤く熟します。
クリスマスの頃、花屋さんで見かける「サンキライ」は、このサルトリイバラの別名なのです。
昔、山に入った病人がこれを食べ、元気に回復して戻ってきたことから「山帰来」という名がついたとも云われています。
生薬としては根茎の方がよく知られています。
がんどばぼちで使用する葉は皮革質で硬いですが、稚葉は柔らかく、天ぷらにして食べられたりします。
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【「がんどばぼち」の作り方】 (写真提供/中山道鵜沼宿まちづくりの会婦人部)
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サルトリイバラは地方名が400近くもあるという調査結果もあるそうです
/「樹げむ舎」
「ぼたもち」と「おはぎ」の違い
漢字で書くと分かるように、春が「牡丹餅」で秋が「御萩」なのです。
では、餡の違いはというと、「こしあん」が「ぼたもち」で「つぶあん」が「おはぎ」なのです。
「おはぎ」は、秋に収穫されたばかりの小豆を使います。皮が軟らかいので「つぶあん」で頂けるのです。
春では小豆の皮がかたくなってしまっているので、皮を剥いて「こしあん」で頂くことになるため、
「ぼたもち」は「こしあん」になるという訳です。
【ぼたもち】 |
【おはぎ】 |
◆木遣音頭
『日本民俗事典』では、「文字通り木を遣る、つまり神木や土木建築の用材を運ぶ作業の唄から、
石
搗き・地固め・網起し・船卸し・鐘曳き・火消し道具曳きなど綱を曳く諸作業に及び、
転じて祭礼唄ともなる」と説明されています。
【諏訪の御柱祭り】(写真提供:konpapaさん)
木遣音頭は、全国各地で、それぞれ独自の伝統を引き継いで唄われており、
日本火消しの江戸木遣りや伊勢神宮式年遷宮のお木曳、諏訪大社御柱祭の木遣りなどが有名です。
江戸木遣りでは「木遣りには、材木等の重量物を移動するときに唄われる木引き木遣りと、
土地を突き固めるいわゆる地形の際に唄われる木遣りの2種類があり、江戸木遣りは地形木遣りに属する」としています。
それからすれば、伊勢や諏訪は前者の木引き木遣りと言えでしょう。
江戸木遣りは、歌詞というより掛け声を独特の節回しで、聴かせるタイプで、主に祭り始めや祝い事で唄われます。
一方、御柱木遣りなどは、祭り全体の進行を担っており、よく通る高い声で周りを巻き込んで祭り全体を盛り上げます。
「ヨイサー」などの掛け声を聴衆に求めたりもします。
【中山道鵜沼宿秋まつり】
では、中山道鵜沼宿の木遣りはどちらなのかといえば、先の区分では木引き木遣りといえますが、
地元の祭りを主導するというよりは、祭りの中でのアトラクション的要素が高く、魅せて聴かせるタイプともいえます。
一般に木遣の歴史は、約1,000年前の鎌倉時代に遡ると言われていますが、広く日本各地で歌われるようになったのは江戸時代になってからといわれます。
唄は語り継がれていても、その歴史については余り分かってはいません。
しかし、鵜沼宿には調べ尽されていない資料も、
まだまだ残されており、今後の課題でもあります。
愛知、岐阜で、比較的歌詞が似ている木遣りでは、生立ちについて次のように言われています。
- 名古屋の平針地区
慶長15年(1610)名古屋城築城の際の築城木遣り音頭を伝承したものといわれています。
築城資材の石材や木材の運搬等この工事の間、当時人夫としてかり出された平針始め名古屋周辺の農民達が、
他国から来た人夫の木遣りを覚えたのが始まりといわれます。
- 愛知の稲沢地区
加藤清正が名古屋城を構築した際に唱えた音頭を、近藤甚七が習い覚えたものを伝授し広めたものといわれる。
- 中津川の付知地区
徳川家康が全国の諸大名に命じ名古屋城を築いたとき、加藤清正がこの築城に加わり難工事をなしとげました。。
この工事のとき石曳きに唄われた音頭が付知村に伝わり、伊勢神宮の御神木を送り出すときに唄われるようになり、今日に引き継がれてきました。
いずれも、名古屋城築城や加藤清正がでてきます。
【加藤清正の石引きの像】(名古屋城)
加藤清正は、逸話も多く、どちらかと言えば豪勇な武者のイメージがありますが、主君の秀吉は彼の実務者的能力を高く買っていたようです。
そのため、戦場では前線ではなく、後方支援にあたらせていたようです。
治水などの土木工事の実績もあり、人を上手く乗せて動かすことに長けていたとも言われています。
慶長15年(1610年)、徳川家康が全国の20の諸大名に名古屋城の石垣や掘割の工事を命じたとき、その担当区割りで
清正は、いの一番に、目立つ難工事の天守石垣工事を申し出ています。そして、僅か3か月で完成させています。
清正は、美しく着飾った小姓とともに大石の上に乗り、綱引きの人々をはやし立て、見物人に酒を振る舞ったと伝えられ、清正の石引きとして有名です。
清正が運んだという有名な「清正石」は、自らの区割り外に置かれていることから、これもかなり逸話っぽい。
いずれにしても、この工事で地方から多くの人々が集まり、そこで覚えた木遣り唄を地元に戻って広めた可能性は十分考えられます。
◆木遣り唄の歌詞
赤字:受け(担ぎ手)、黒字:各編共通
『追掛け祝い唄』
<鵜沼宿編>
ヤンエイ追掛
囃が
<イエ>強ければ
オンヤレー
まず今日の、お祝いに
めでたいことで
<イエ>囃そうなら
オンヤレー
美濃の国の中山道
鵜沼の宿の<イエ>町屋館
オンヤレー
脇本陣を再現し
昔の面影を醸し出す
オンヤレー
喜び歌う西町の
氏子連の<<イエ>祝い唄
オンヤレー
二の宮神社の御前を
木遣りの音頭で<イエ>練り歩く
オンヤレー
追掛中の綱 見事に好く揃た
ヨーオーイ ヨーオ
エンヤー エンヤーの サーきづな
ヤーンエーエ ヤーンソーレー ハーリワイサーのオーエ
『土佐入事』⑴
ヒーエイエー イーエイエー
囃せ 声を掛けよ
家声を掛けて 若い衆
ヨイヨイ
在る事か 聞かしゃんせ
ヨイヨイ
京都 伏見の
間に見ゆる あの塔は
ヨイヨイ
誰が建てたか飛騨では
匠の守か 竹田の番匠か
ヨイヨイ
一重 二重と 積み上げて
ヨイヨイ
三重 四重 難なく五重と
積み上げて
ヨイヨイ
末は 楔一丁で留められた
ヨイヨイ
ヨオ ヨーオーン ヨーヤネ
ヨーオン ヨーオン ヨーヤネ
『土佐入事』⑵
ヒーエイエー イーエイエー
囃せ 声を掛けよ
家声を掛けて 若い衆
ヨイヨイ
在る事か 聞かしゃんせ
ヨイヨイ
木曾の三十六里の御山は
ヨイヨイ
檜 椹の御山で
ヨイヨイ
長さ三十六間
末ロ三尺八寸を
ヨイヨイ
大車にと打ち乗せて
ヨイヨイ
木遣で采を振る時は
ヨイヨイ
東西南北 諸共に
ヨイヨイ
ヨオ ヨーオーン ヨーヤネ
ヨーオンヨーオンヨーヤネ
『早かけすか』
ヤーアーアーアレナーアーア
五葉はめでたの
@
若松様よA
枝も栄えて@
葉も茂る
なる程に これも盛者え〜
B
⑵咲いた桜に
@
なぜ駒つなぐA
駒が勇めば@
花が散る
⑶お前百まで@
わしゃ九十九までA
共に白髪の@
生えるまで
⑷見たか見て来たか@
名古屋の城をA
金の鯱@
雨ざらし
⑸私しゃ野に咲く@
一重のつつじA
八重に咲く木は@
さらにない
⑹松になりたゃ@
並木の松にをA
緒国大名@
下に見る
⑺松に松虫@
青田にいなごA
女郎にかむろは@
つきのもの
⑻わしとお前は@
お倉の米よA
やがて世に出て@
ままとなる
⑼しめてなるのは@
太鼓や鼓A
なんぼしめても@
わしゃならぬ
⑽色は黒ても@
浅草のりはA
白いおまんまと@
だきねする
⑾竹にスズメは@
しなよく止まるA
留めて留まらぬ@
色のみら
⑿いやよいやよと@
畑のいもはA
かぷり振り振り@
子をふゃす
⒀美濃の白山@
屋敷を見ればA
はなの見事@
宿にする
⒁白山神社@
三国一よなえA
木曽の大河を@
従える
⒂春は桜の@
斉北参道A
寺領を誇る@
大安寺
⒃夏は夕風@
ホタルの里はA
星とホタルで@
数競う
⒄秋は甍の@
高々そびえA
白壁光る@
脇本陣
⒅冬は身を切る@
厳しき里にA
ご利益多し@
日之出不動
⒆いつも変わらぬ@
人情厚しA
また来ておくれ@
鵜沼宿
- 【受け@AB】
- @アーコリャコリャ Aハーヨーオヤセー
- Bヤーア ヨーオ ヨイサーヤ アーヤーアノセー エーエンヨーオ ヤーアヤセー
2番以降、共通部(黒字)省略
『笠くどき』
⑴向へ通るは
@
清十郎でないか
A
笠がよく似た清十郎の笠に
B
⑵笠が似たとて
@
清十郎であれば
A
お伊勢参りは 皆 清十朗笠
B
⑶有りし昔の
@
其の物語
A
笠に名よせてくどいて見れば
B
⑷国は幡州
@
姫路が町に
A
隠れあらざる但馬屋とゆうて
B
⑸音に聞こえた
@
町人なれど
A
手代子供のある其の中で
B
……
⒃是を路銀
@
売りしろがえて
A
たとえ如何なる山奥の 虎狼の居るその中も
二人連れならわしゃいとやせぬ
B
- 【受け@AB】
- @コーラーショー Aハーイーイイ ヤーァオイ
- Bヤーヨーォオン,,ヨーォオン。ヨーオーンエーエー、ハーアヨーオン.ヨーオーンエーエ、イーハ、
リャーリャーハ.ハーァリャーリャーアーハー、ヨーオーオーオォイーイィイーイーイーィトネー
6〜15番省略
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